漫画が原作のドラマ「正直不動産」。2024年11月から「正直不動産」「正直不動産2」の全20話が3か月にわたって一挙放送されたので、ご覧になられた方も多いでしょう。私も毎週楽しみにしていた「正直不動産」ファンの一人です。みなさんにも身近なこのドラマを題材に、不動産取引の際に気を付けたいトラブルや知ってお得な情報をお届けします。
第一話には、賃貸集合住宅の大家が入居者に嫌がらせをして退去させ、敷金・礼金を頻繁に受け取ることで儲けようとしているというエピソードがありました。こんなことは昔はあり得たようですが、現在はまずありませんが、ここでのキーワードは「敷金」「礼金」「原状回復」でしょう。これは多くのみなさんがとても身近に感じるものだと思います。
40年近く前に初めてアパートを借りるとき、私は訳も分からず「敷金」を払い、退去時に畳表や壁紙の貼り換え費用を差し引かれて返金してもらった記憶があります。このように、「敷金」とは主に退去時の原状回復のための費用で、床や壁についた傷の修理、壁紙などの交換にかかる費用を差し引かれて返金される(または追加徴収される)もの、というのがかつての認識でした。
一方、礼金は大家への謝礼で退去時に返金されることはありません。一般に関東ではこの「敷金・礼金」が、関西では「保証金・敷引き」が慣例となっています。「敷金」と同様に初期費用として預けた「保証金」から、退去時には一定額の「敷引き(償却)」が無条件で差し引かれ、残額が返金されるという仕組みです。
ところで、入居時に支払う「敷金」には昔からトラブルがつきものです。私も1年しか住んでいないのに大家から3か月分の敷金を返さないと言われ、交渉して半額返してもらったことがあります。また、結露による壁紙のカビを理由に、「敷金」の返還どころか追加請求されそうになったこともあります。「敷金」をめぐるトラブルは裁判になることが日常茶飯事という印象です。
最高裁(平成17年12月16日)は、原状回復特約について、借主の通常使用に伴う損耗分の補修費用は原則的に貸主負担であるが、特約そのものが無効ではなく、特約を付加するのであれば、借主が負担する通常損耗の範囲を具体的に契約書に明記しておくなどして、明確に合意されていることが必要だとしました。つまり、この判決は、特約が有効となる要件を明らかにしたのです。
この考え方に沿って「クリーニング特約」の有効性も判断されました。例えば「契約終了時に、本件貸室の汚損の有無及び程度を問わず専門業者による清掃を実施し、その費用として2万5000円(消費税別)を負担する」旨の特約は有効とされました(東京地裁 平成21年9月18日)。なお、国交省は次の3点などから有効・無効が判断されるとしています。
- 賃借人が負担すべき内容・範囲が示されているか
- 本来賃借人負担とならない通常損耗分についても負担させるという趣旨及び負担することになる通常損耗の具体的範囲が明記されているか或いは口頭で説明されているか
- 費用として妥当か
また、貸主が原状回復費用などとして敷金(保証金)から一定額を引き去る「敷引特約」が消費者契約法に照らし無効かどうかが争われた裁判では「敷引金が高額過ぎなければ有効」(最高裁 平成23年3月24日)とされた判例もあります。「高額過ぎなければ」が微妙ですが、他の判例からは月額賃料の3倍程度が目安のようです(礼金がない場合)。
賃貸住宅の退去時における原状回復のあり方が大きな問題となる中、1998(平成10)年、原状回復にかかる契約関係、費用負担等のルールのあり方を明確にして賃貸住宅契約の 適正化を図ろうと、国交省が『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を取りまとめます。端的に言えば、物件の損耗について、誰がどこまで負担するのか責任の所在を明確にしました。
平成23年 8月の再改訂版では、「敷金」について、「賃借人が賃料を滞納したり、賃借人が不注意等によって賃借物に対して損傷・破損を与えた場合等の損害を担保するために、賃借人から賃貸人に対して預け入れるものです」と説明しました。ポイントは、ここに「原状回復」の文字が見当たらないことでしょう。
また、「原状回復」については「賃借人の居住、使用により発生し た建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるよう な使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」と定義しました。ガイドラインには、どこまでが貸主の負担で、どこからが借主の負担なのかが具体的に書かれています。
例えば、テレビや冷蔵庫から発せられる熱や静電気によって、後ろの壁紙(クロス)が黒ずむ現象(電気ヤケ)は、通常の生活において避けられない「通常損耗」とみなされます。このため、退去時に壁紙の張り替えが必要になっても、借主が修繕費用を支払う必要はありません。重い冷蔵庫を置いていたことによる自然な凹みも同様です。
ただし、冷蔵庫から漏れた水や結露、サビを放置して床材を変色・腐食させてしまった場合は、借主の「管理不足・過失」とみなされ、修繕費用を請求される可能性があります。そのほか、借主負担となる事例は、タバコによるヤニ汚れや臭い、壁紙の焦げ付き、手入れを怠ったことによるカビや水垢、ペットによる柱の傷、壁紙のひっかき傷、臭いなどがあります。
そして、『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』の考え方に沿って基準を策定した、2020(令和2)年4月施行の改正民法では、借主は通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わない旨や、賃貸借契約終了時には貸主は敷金を精算し借主に返還しなければならない旨が明記されています。なお、改正民法の対象となるのは、2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約です。
ただ、前記の『原状回復をめぐる…』には「特約を設けることは契約自由の原則 から認められるものであり、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることも可能である」として、【賃借人に特別の負担を課す特約の要件】まで明記されています。ちょっと混乱しますね。詳しくは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(抜粋)を下のリンクからどうぞ。
また、賃貸住宅入居者にもガイドラインの内容を理解してもらうため、2023(令和5)年3月、国交省は写真や計算例などを示してガイドラインの考え方を補足する参考資料を作成しました。『「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料』という長い名前です。こちらも下のリンクからどうぞ。
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近年は、敷金礼金の初期費用ゼロのいわゆる「ゼロゼロ物件」もあります。しかし、これには要注意です。実は家賃が相場より高め、「ゼロ賃貸システム使用料」などの名目で毎月数千円の追加費用を取られる、短期解約違約金が設定される、「退去時礼金」などの名目で退去時に家賃2か月分程度をとられるなど、多くのケースはからくりがあり、一概にお得とは言えません。また、「ゼロゼロ物件」は借り手の質がよくない可能性が高いとの声もあります。近隣環境はとても重要です。
いずれにせよ、トラブルを未然に防止するためには入退去時に損耗等の有無などを十分に確認することや、原状回復などの契約条件を当事者双方がよく確認し納得したうえで契約を締結することが大切です。そして、そこをしっかりお手伝いするのが私たち不動産屋の仕事です!
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