映画「正直不動産」で学ぶ1ー「定期借家契約」なんて聞いてないよ~

「正直不動産」で学ぶ
「正直不動産」で学ぶ

映画『正直不動産』、正直言って面白かったです。テレビドラマ版と同じ監督&脚本の二人が、「笑えて泣ける」、純粋エンターテインメントの世界を、スクリーン上で見事に表現してくれました。しかも、すべてがテレビドラマ版(最新作はスピンオフ『正直不動産ミネルヴァSPECIAL』)の延長線上。『正直不動産』ファンの期待に120%応える快作だと思います。

さて、ここからはネタバレありです。今回の不動産うんちくは大きく2つでしたが、そのひとつが「定期借家契約」です。ある日、嘘つきのころの永瀬(ライヤー永瀬)にアパートの仲介で契約したミュージシャンが登坂不動産に怒鳴り込んできました。「期間満了で賃貸借契約が終了するから退去しろとの通知が届いたが、そんなの聞いてない」、そんな理由です。

通常の借家契約(普通借家契約)でこんな通知が届くことはありません。憲法25条(生存権)を根拠に、日本の法律(借地借家法)では借主(入居者)の権利が強く守られているからです。賃主(大家)は「正当事由」がない限り、解約や賃借人からの契約の更新を拒むことができません。なお、古くなったアパートの建て替えは、一般に「正当事由」には当たりません。

アパートを建て替えるには、借主に立ち退き料を払って出て行ってもらうしか方法がないと、それは容易ではありません。お金もかかれば時間もかかります。建物の老朽化が進むにつれ空室率も上がり、賃貸住宅経営は圧迫されます。結果、街の新陳代謝が阻害されることにもなります。そこで借地借家法が改正され、2000年に「定期借家制度」が導入されました。

この制度では、契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借契約を終了させることができる(合意による再契約は可能)ので、数年後にアパートの建て替えを計画している場合も空室を有効活用できます。このほか、国交省が「定期借家契約を活用した効果的な事例」としてあげているのは、次のとおりです。

  • 賃貸住宅の大規模修繕をスムーズに進める一つの手法として
  • 転勤時の留守宅(戸建てや分譲マンション)を賃貸する場合
  • 高齢者世帯が郊外の一戸建てから中心市街地の賃貸住宅へ住み替える場合

そのほか、将来自分が住むまで、空き家になっている実家を貸し出したり、別荘やセカンドハウスをオフシーズンだけ貸し出したりする際にも使えます。ほかにも、転勤や学生の就職活動などに合わせてマンスリーやウィークリーマンションとして貸し出すといったケースもあるでしょう。さらには、社会的弱者への住宅提供を促す手立てとなる可能性もあります。

貸主は高齢者・母子家庭・生活保護受給者等との賃貸借契約を敬遠しがちです。それは死亡や家賃の滞納リスクが高いと考えるからです。しかし、短期でも契約満了となる「定期借家契約」であれば、普通借家契約より貸しやすいと思います。「保証会社」「見守りサービス(行政・民間)」などと組み合わせれば、貸主のリスクをさらに低減できるでしょう。

また、全く違ったメリットもあります。それは悪質な入居者(借主)に対して「ルールが守れないなら、再契約しません」と言える抑止力です。「定期借家契約」では、映画の中のミュージシャンのように、家賃滞納や迷惑行為を繰り返す入居者には契約期間満了を理由に明け渡しを求め、問題のない入居者に限って再契約することも可能になります。

なお、「再契約型定期借家契約」というものがあります。これは定期借家契約のひとつで、問題のない入居者であれば再契約を保証するものですが、法的に再契約が保障されているわけではありません。また、更新ではなく再契約なので、同じ条件での継続入居を保証されるわけでもありません。家賃が見直されたり、再契約にかかる費用が発生することもあります。

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さて、映画に戻りましょう。嘘つきのころの永瀬が「定期借家契約」の物件について説明するシーンがありました。相場より賃料が安い物件に食いつくミュージシャンに、永瀬は「更新がなく、期間満了によって終了する」ことを説明しません。物件概要書の但し書きを見たミュージシャンからそのことを突っ込まれると、思い切りごまかします。まさにライヤーです!

「定期借家契約」は、日本では特殊(アメリカでは普通)な契約です。だから、トラブルを未然に防ぐための特別な手続きが定められています。そのひとつが、契約の更新がないこと(期間満了で終了すること)を記載した説明書面の交付及び説明です。本来は貸主(大家)へ課せられた義務ですが、多くの場合は媒介(仲介)の宅建業者が委任を受けて行います。

映画を見る限り、永瀬はこの手続きを完全にすっ飛ばしてます。このような場合、「契約更新がない」という条項は無効となり、借主の意思で「普通借家契約」として更新を求めることができます。ということは、月下の同級生のミュージシャンは退去する必要はなかったわけです。結果的に月下が彼にぴったりの物件を見つけてくれましたが…

「定期借家制度」について詳しく知りたい方は、国交省のパンフレットをご覧ください。

https://www.mlit.go.jp/common/001170116.pdf

桜町不動産
桜町不動産

「定期借家制度」は特に貸主(大家)にとってメリットが大きいように思いますが、2000年の導入以来、居住用賃貸市場での普及率は数%と低い水準に留まっています。それは、私たち宅建業者の多くが「定期借家契約にすると家賃を下げなくてはいけない」「余計な手間が増える」と思い込んでいることが一因だとの指摘があります。

ネットには「定期借家契約の賃料は普通借家契約の賃料より2割程度安く設定される」などとありますが、「定期借家契約」というだけで家賃を安く設定する必要はありません。悪質な入居者と再契約をしない「定期借家契約」では、多くの問題のない入居者に「変な人には出て行ってもらえる」という安心感を提供できます。「定期借家契約」は、実は借主にもメリットがあるのです。

手間は確かに増えます。それは「定期借家契約が1年以上の場合、貸主は借主に、期間満了の1年~6か月前に、期間の満了により賃貸借契約が終了する旨を通知する必要がある」からです。しかし、これは多くの場合は貸主から委任を受けた管理会社が行います。事務的な手間は増えますが、住民トラブルへの対応が続くことに比べれば大した手間とは言えないでしょう。

外国ルーツの住民も増加する昨今、より国際基準に近い「定期借家契約」が今後増えていくことが予想されます。しかし、特に首都圏では「家賃の値上げがしやすい」という理由で「定期借家契約」にすることも少なくないようです。入居時の家賃を安く設定し、再契約のたびに著しく上げるようなやり方は好ましくありません。

私たち宅建業者の仕事は、貸主と借主ともに大きなメリットがあるような契約形態にしていくことだと思います。


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